■虐殺器官[小説]
伊藤計劃/著『虐殺器官』(2014)ハヤカワ文庫
テロを防止すべく、IDを管理する近未来社会。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、言語学者ジョン・ポールを追っていた。ポールが関与する国はことごとく内戦状態に陥り、虐殺行為が行われてしまう。それを阻止すべく、シェパード達は暗殺へ向かうのだが、いつも既のところで取り逃がす。 ポールの愛人ルツィアに近付き、ポールの居場所を探るのだが…SF
『東京喰種』をきっかけに、このところずっとアニソンを聴いている。一昔前と違って、JROCKバンドが楽曲を提供しているので、聴き応えのある曲が多い。
『多重人格探偵サイコ 』と同じく、先に音楽が気に入り、調べた過程で興味を持った『虐殺器官』、久しぶりのSF小説である。
主に小説は通勤の電車内で読んでいたのだが、電車に乗る機会が少なくなり、最近はもっぱら旅行の際の移動中に読んでいる。そして、この本はモロッコで読了、この感想を書いているのはカタールである。
アニメのイメージが先行していた為、気軽に考えていたが、かなり読み応えのある本だった。
ずっと母親の死に罪悪感を抱えるシェパード大尉。小説全体が死に取り憑かれている。それもそのはず、癌を患う著者自身にとって死が身近な存在であった。
遠回しに伝えて来る人間は苦手である。
何を言いたいのか、じっと話を聞いて待たなければならず、結果的に不愉快な話を私に伝えたいだけなのに、自分可愛さで私に嫌われないように回りくどく話す、その時間がもったいない。私に理解できるように説明を加えながら話してくれているのならともかく、自分が言いづらい事をオブラートに包みながら曖昧に話すものだから、その言葉の裏を探りつつ、どこに着地点があるのか見極めなければならない。
だいたいが相手に取って不快感が倍増し、忘れられない出来事として残る事を知らない、人生経験が浅い人間がする。
この小説は遠回しだ。
しかし、一見無関係な内容に思える記載がこの小説に深みを与えてくれる。結局は、世界安定の為米軍が暗殺し、悪いヤツを根絶やしにしようとするスパイ小説なんだけど、一時期流行った心に傷を負ったベトナム帰還兵の様相、そして純愛。
著者がロマンチストだと感じた。
表現方法も、「目蓋を持ち上げると、死者の国は消え去り〜」つまり、“起きた”という意味だ。
この前のページに「生者の国の旅客機で眠りに落ち、生者の国の旅客機で目覚める」と布石を打っている。これは遠回し以外の何物でもない。伏線では無いし、物語の展開に必要な物では無いからだ。
しかし、こういう事がストーリーに表情を与え、読み手の感情に徐々に影響を及ぼす。すっかり虜になってしまった。
武器や装備だって、現代の実物でも構わないのに、創作物によって想像力を掻き立てる、そこがSF。
たくさんの本を読んで、豊富な知識を持っていたと感じさせる著者、既に亡くなっているのがくれぐれも残念だ。
「ぼくはルツィアにもう一度逢いたい。
ぼくはルツィアに赦すと言ってもらいたい。
神は死んだ。神は死んだ。大いに結構。
ぼくはルツィアに赦してもらえれば、それでいい。」
私の失敗した人生と、ずっと引きずったままの苦い過去を思い出し、涙が止まらない…
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