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    *Hello Nico Another World

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2010.03.29

■庵堂三兄弟の聖職 [小説]

Andou Sankyoudai no Seisyoku by Junjo Shindo
真藤順丈/著『庵堂三兄弟の聖職』(2008)角川書店

千葉県茂原市。庵堂家の三兄弟、長男・正太郎は父の後を継いで遺工師となり、次男・久就は東京でサラリーマン、汚言症を患う三男・毅巳は家業を手伝っている。
父・明夫は永眠者の肉体を身近な生活用品へと作り変え、遺族に遺工品を引き渡すのを生業として来た。その父の七回忌を前に正太郎は仕事を休むつもりでいたが、のっぴきならない仕事を叔父・四万木が持ち込んで来た。
事故に遭って亡くなった豊島興業会長の一人娘・さおりの無残な肉体を美しく甦らせ、保存する事だった…ホラー/ドラマ

角川書店主催<第15回(2008年)日本ホラー小説大賞>受賞作『庵堂三兄弟の聖職』、作者は執筆に専念するため仕事を辞めて、部屋でひたすら書き続けていたそうだ。

最初はデジャヴ感、工房の様子に平山夢明のホラー小説を連想した。
しかし読み進めるうちに考えは変わった、これは家族の再生をテーマとした人間ドラマである。ただし奇妙だけど。

グロい仕事でありながらも職人に徹した正太郎の真摯な姿や、心のわだかまりをやっと自分で解明しようとする久就、自分の幸せを掴もうとすればする程ドツボにはまってゆく毅巳、久しぶりに集まった3人の苦悩と葛藤をハイテンションに描きながらも、不器用な人間達の切なさも感じられる。
砕けた口語体の文章に取っ付きの悪さを感じたけれど、分かりやすい内容でスラスラと読めた。
3人のバラバラな個性が良いバランスを保っていて、以前知人が子供を生むなら「2人だとライバル、3人で社会になる」という話をしていたのがよく分かる。3本の矢と言うより三輪駆動車と言ったところ、3人で突っ走るイメージ。
こういった、わりと私が読まない傾向の雰囲気で全体的に漂う喧騒感から、ボリス・ヴィアンを初めて読んだ時の気持ちを思い出した。あれは遠い昔、私がまだ女子高生だった頃…かな? あやふやな記憶(^^ゞ

遺体の解体と再生が綴られているが、ほとんどの人が抵抗あるだろう。でも、リサイクルショップのオーナーと考えればイメージしやすいのではないだろうか。中古屋の店主がテレビを水道につながれたホースでジャブジャブ洗って、映るように修理していたよ。

将来なりたいものが<皮ジャン><皮パン>、<スーパーボール>には笑った。よくこんな事が思いつく物だと感心してしまう。登場人物もイカレてるが、これがまた一生懸命なので嫌な感じはしない。どんなに失敗しても真面目に取り組む人に好感を持てるのと同じ感覚。
ホラーであってホラーでは無い、ちょっと風変わりなダークファンタジー的ホームドラマ。二つほど解決していない疑問があって消化不良気味、いつか続編が出るかな???
地図男』はハズレだったけど、こちらはアタリ、『RANK』も読まなきゃね。

2010.03.28

■紗央里ちゃんの家 [小説]

Saori chan no Ie by Takashi Yabe
矢部嵩/著『紗央里ちゃんの家』(2008)角川ホラー文庫

小5の夏休み、僕は父と共に車に乗り7時間かけて父の実家へ帰省した。
祖父母と父の妹夫婦そして従姉の紗央里ちゃんが住んでいたが、祖母が数ヶ月前に亡くなったと言いながら葬式の連絡も無く、紗央里ちゃんは家出したと告げられる。
訪れた家には不快な臭気が漂い、叔母の身体は血まみれ、腰紐には包丁が差し込んであった…ホラー/スリラー

角川書店主催<第13回(2006年)日本ホラー小説大賞>長編賞受賞作『紗央里ちゃんの家』、作者の矢部 嵩(やべ たかし)は、当時大学在学中で19歳だったそうだ。

読後の感想としては10代という事で、今後に期待という意味で受賞したのかな?
読みやすいが、読み応えがあるわけでは無い内容と薄い本なのに長編賞、438円もする(私は中古で買ったが)。

グチャ~としたイメージの小説で、全体的に気持ちが悪く、登場人物もみんな変。
叔母一家がイカレてるのは何か原因があるかもしれないと考える事ができるが(薬物中毒とか宇宙人に洗脳されたとか色々想像可能)、実家が異様な状態なのに普通に振舞う父が変。
そして、証拠を突きつけて異常な事をなかなか告げない僕も変。
まぁ、あきれるほどおかしな小説なんだよ。姉とのやりとりという息抜きできる部分が無かったらキツかっただろう。
結末も放置プレイで不完全燃焼、殺人自販機も加えて消化不良。
夏休みの子供の想像なんでしょうかね? もしも、作者の親戚に同様の家族構成があったとしたら、その親族達は不愉快だろうなぁ。

この小説は、家中に身体のパーツが散らばる“臓物屋敷”という設定。そんな事はあり得ないから(腐敗して電気の紐として引っ張る事は不可能)、設定を変えて“ゴミ屋敷”と言いかえたらイメージがわくのではないだろうか。
それにしても、“そんな物”口に入れるなよ!! と、私は言いたい。

2010.03.27

■生き屏風 [小説]

Iki Byoubu by Seika Tanabe
田辺青蛙/著『生き屏風』(2008)角川ホラー文庫

働きもしないで親の蓄えを喰いつぶして過ごす怠惰な男・次郎の前に喋る猫が現れ、彼をふわふわと漂う雪に変えてくれた。
この集落では秋祭りに贈り物をする事により、男女がつきあうきっかけとなる。次郎もたった一度だけ贈り物を用意したが、結局渡しそびれてしまっていた。
再び、妖(あやかし)の猫に頼み込んで雪に変えてもらい、翡翠色の目の女の元に舞い降りる。「猫雪」…ファンタジー/ホラー/ドラマ

角川書店主催<第15回(2008年)日本ホラー小説大賞>短編賞受賞作『生き屏風』、表題作他「猫雪」と「狐妖の宴」の県境に住む妖鬼・皐月(さつき)を中心とした短編3作が収録されている。田辺青蛙(たなべせいあ)はコスプレ好きの女性だそうだ。

表紙のイラストが内容を象徴していて、どれもほのぼのとした味わい、「♪ぼうや~よい子だ、ねんねしな」と歌が聞えてきそうな牧歌的雰囲気を持つ癒し系ホラー。
江戸時代の村を舞台とした昔話で、村を守る妖怪達と庶民達との交流とでも言ったところか。お互い深い付き合いはせずとも、尊敬の念を持って一目置かれる物の怪達。たまに邪険に扱う者も居るが、妖怪の方が一歩先を行くから波風は立たず、ゆったりとした時間が流れる。

皐月のイメージはアニメ『犬夜叉(いぬやしゃ)』の七宝、憎めない存在である。アニメ『ワンピース』のチョッパーも近いモノがあるが、ケダモノに変身してしまうところがイメージとは違う。どちらも愛されキャラだ。

皐月は布団という名の馬の首の中で寝る。
奥平イラのマンガに砂漠の夜に獣の腹の中で寝る話があったのを思い出した。
どれもこれも漫画につながる…紙芝居のように絵面が頭に思い浮かんでくる御伽噺なのかもしれない。

2010.03.25

■少女 [小説]

Syojo by Kanae Minato
湊かなえ/著『少女』(2009)早川書房

公立の女子高に通う由紀と敦子は小学生の頃からの親友だ。
近隣の私立校から転入して来た紫織が友だちの自殺を目撃したと知り、二人は人が死ぬ瞬間を見たくてたまらなくなった…サスペンス/青春ドラマ

前作『告白』が面白かったので、ハヤカワ・ミステリワールド『少女』を買ってみた。

これはいわゆるケータイ小説というタイプなのだろうか、刺激的な出来事が連鎖するかのように、次から次へと発生する。 
偶然出遭った人が友達の父だったり祖母だったりと、二つも高校があるというのに、この地域には30人ぐらいしか住んでいないようだ。まるでドラマの人間関係相関図のようにみんなグルグルとつながり、知らず知らずのうちにお互いの知人を傷付け合っている、できすぎ君。ご都合主義もはなはだしく、現実にはこんな事態はあり得ないだろう。
人の死を軽々しく考えていまいか?

序盤から、ブーブー文句たれていて読むのがつらい…何てすさんだ心の少女達なんだろう。
人の顔色ばかり伺っていないで、自分は自分と思えないのだろうか、みな頭が病んでいる。この少女達はあと70年は生きられるのに、その間どうやって過ごすつもりなのだろう。お願いだから子供だけは産まないで…と、願いたいくなるような嫌なヤツラばかり。
嫌がらせの為に下着や汚物を机の中に入れる…どうやってわざわざそこまで運んだの? その場で脱いだとでも言いたいのだろうか。
だいたい病院のベッドには必ず名前が貼ってあるでしょ、間違えようが無い。
不自然さにあきれるばかりの薄っぺらい小説だった、良かったのは「ヨルの綱渡り」の部分だけ。

これを無垢と言うのだろうか? 
そう言われれば、赤ちゃんは欲望のおもむくまま、自分が欲しい物を手に入れる為に泣き叫ぶ。他人なんかに気を遣わない、人生の中でもっともマイペースでピュアな時期。そして、成長しない少女達。

この小説を読んで、映画監督ヴィンセント・ギャロを思い出した。ヒットした『バッファロー'66』の後、期待された次作『ブラウン・バニー』が酷かった。早川もこの著者に期待していたのではないだろうか…

救いは中古本屋で手に入れた事、定価で買わなくて良かった~

2010.03.24

■チューイングボーン [小説]

Chewing Bone by Naotoshi Ohyama
大山尚利/著『チューイングボーン』(2005)角川ホラー文庫

大学卒業後、就職せずに居酒屋のバイトと愛犬サリーとの散歩だけの生活をし、真面目だがこれといって取り得の無い青年・原戸登。
ゼミが一緒だったが一度も口をきいた事がない嶋田里美から連絡を受け、喫茶店で待ち合わせた。そこで彼女はビデオカメラを渡して奇妙な事を言う、「ロマンスカーの展望席から3回ビデオを撮ってください」…ホラー/サスペンス/スリラー

角川書店主催<第12回(2005年)日本ホラー小説大賞>長編賞受賞作『チューイングボーン』、チューイングボーンとは犬が噛む骨。登はゴールデンレトリーバーの雌・サリーを飼っている。母が自殺した後、父が家に連れて来たのだった。

最初は表現がわざとらしくて読むのがダルかった。例えば、ビデオカメラを“動物の臓器の化石”と形容してみたり、歯医者のくだりは長くて、内容には関係無いだろうとウンザリ…
小説を読み進めるうちに、同級生のサトシを思い出した。先生にネチネチと屁理屈をこねて授業を中断させたりして、目立ちたい、自分の存在を誇示したいという中学らしい気持ちをクドさで表現する彼が苦手だった。
その当時の不愉快な気持ちがよみがえり、読書をたびたび中断、他の本を読んだりしていた。
しかし、それは前半だけの事。「えっ、こう来るの?」という展開になってからは、表紙を見るだけでも動悸がし、先を読むのが怖い部分さえある。だが、そこが重要なのだ。そこがあったからこそラストへとつながっていく…どんどん堕ちて行く登。そして、高く飛ぶ。
特に好きなのは手紙の部分。ひらがなが多用されていて、それまで登の独白だった内容と違う流れを感じさせて、読者が納得できる内容にも好感が持てた。

典型的な負け犬の登。里美に会わなければ、彼女の頼みを断っていたら、彼はこのまま流されるままの生活を淡々と続けていただろう。撮影は良い機会だったかもしれない、自分を変える良いきっかけとなり得たのに…そう来たかヽ(´Д`)ノ
単調に過ごして来た登にとっては、自分の目的ができて生活にハリを感じられたのではないだろうか。そう、『タクシー・ドライバー』のトラヴィスのように。行き着く先は予想できるが、ありきたりの小説とは一風変わっているのが良い。
映画だと破滅的な行動をしたが為に収集がつかなくと、夢オチでごまかされる事がある。『隣人13号』とか『ファイトクラブ』とか、『ジェイコブズ・ラダー』も近いモノがある。
しかし、この小説は“夢オチ”などという安易な手法で読者を欺かず、いい感じの方向へ向かってくれる。貴志祐介の『青い炎』のように、破滅へのカウントダウン。

読後感は決して良いとは言えないが、時間の経過に従い後味の悪さが薄れ、ジワジワとこの本が面白さが再認識される。
うん、良い小説だ。堕ちる様が良い。この世は聖人ばかりでは無いし、毎週スッキリ解決し犯罪をおかす明確な理由があるアニメ『名探偵コナン』が白々しく感じる私には、こういうクライム・サスペンス系の方が肌に合う。だが、映画『隣の家の少女』を観に行く度胸は私には無い。

※一部ネタバレの為、文字を白に設定。見たくない人は、ドラッグして文字を反転させない事。

2010.03.23

■嘘神 [小説]

Usogami by Shiro Mitamura
三田村志郎/著『嘘神』(2009)角川ホラー文庫

ある日目覚めると、そこは窓の無い金属の壁に囲まれた密室だった。
高3のコーイチと共に居たのはいつもツルんでいる仲間5人、全員寝ている間にこの部屋に監禁され、事態が把握できずに戸惑っていた。
姿が見えぬ“嘘神”の声が室内に響く、「元の世界に戻りたければ生き残れ」。最後の一人を目指すサバイバルゲームの幕開けだ…ホラー/サスペンス/スリラー

角川書店主催<第16回(2009年)日本ホラー小説大賞>長編賞受賞作『嘘神』、著者は22歳の大学生。

本作は何の前触れも無く突然、死のゲームに強制参加させる“神の実験”と言う名の人の生死をもてあそぶ身勝手な行為に、まんまと翻弄される若者達の葛藤を描いた小説。
いわゆる不条理ミステリー、犯人は? 目的は? 手段は? 場所は? 何ら答えの出ない青春アクション・スリラー。だって神なんだもん、何でもアリでしょ?!
貧乏神や疫病神、死神、色々な神がいるのだから、“嘘神”がいても良いかもね。存在感が薄そ~、だって誰も信じるはずが無いでしょ、信じてはいけないのよ。
でも、彼らは高3の11月だというのに進路も決まっていないアフォ~な若者達なもんで、目先の事にばかり気をとられ、ヒントがあるにも関わらず答えを導き出せないまま野垂れ死ぬ。

密室ホラーと言ったら何となく、映画『SAW』を連想してしまうだろうが、知恵を絞らなければならないところは映画『CUBE』の方がイメージが近いかもしれない。しかし、これらの映画のように残酷では無いから大丈夫。
むしろ、80年代のドラマ『親子ゲーム』のような騒々しさ。何日も水も食物も口にできず弱っているはずなのに、ドタバタケンカばかりしていて、鬱陶しいほどパワフルでハイテンションな不自然さが鼻につく。そして、嘘神の人選にもあきれた。

読んでいる間中、若者言葉が気になって仕方が無い。“彼女さん”だって…人の顔色を伺うような、下から目線のペコペコ媚びるイメージが浮かぶ。
本作は前々回書いたように、私にとってはハズレである。
でも『古川』を受け入れる事ができない若者にとっては『嘘神』の方がスンナリ入り込め、共感できるのではないだろうか。読後の印象の違いは世代の違いかな…やはりプログレ好きの中年は叙情性が感じられない小説からは感銘を受けないのである。

2010.03.22

■古川 [小説]

Furukawa by Tatsuhiko Yoshinaga
吉永達彦/著『古川』(2001)角川書店

いつもは穏やかだが、大雨が降ると氾濫する“古川”。その川沿いに立ち並ぶ長屋に住む8歳の少女・真理は、2歳半の弟・真司と優しい父母と共につつましく暮らしていた。
台風で雷鳴が轟く夕時、裏戸を叩く者がいた。
3年前に水死した妹・真弓が真司を連れ去りに来たのだった。「古川」…オカルト・ホラー

角川書店主催<第8回(2001年)日本ホラー小説大賞>短編賞受賞作「古川」は和物の正統派オカルトホラー。本書『古川』には「冥(くら)い沼」も収録されていて、私は空想好きな少年の冒険物語のような後者の方が好きだ。

「古川」は川で溺れた少女のつのる恨みが実体化し、残された家族を襲う、水中におけるとてもイマジネーションに富んだ異世界バトル。
それも、郷愁を誘う昭和30年代を舞台とした柔らかな関西弁のやりとりに風情があり、バトル自体も緊迫に満ちたというよりは運動会を応援しているような気分になる(グロいホラー慣れしているもんで…)。

大阪の川の物語と言ったら、映画『泥の河』が頭に浮かぶ。しかし、あんなに暗い雰囲気では無く、むしろ切ない幽霊の心を救済する家族愛に満ちたお話。

*    *   *
小学2年の太一は製材所を営む父との二人暮し。
近所の沼には女の幽霊が出るとの噂があり、いつしか母親の死体が沼に沈んでいると思い込んでしまう。園まり似の母に逢いたいが為に太一は肉を餌に釣りをする。「冥い沼」…ドラマ/ホラー

こちらもまたノスタルジックな夏の日の少年の話で、孤独な少年が想像力逞しく、余計な事を考えてしまう。
エビガ二釣り、少女、肉屋、ギンヤンマ、田代先生、老人…と奇妙な出来事が、背中を徐々に這い登るように恐怖感を増幅させてゆく。
そして、太一の支えとなる男気の竜夫がいい味を出している。

太一、男はな、『ぼく』言う時と、『おれ』言わなならん時がある。
もし怖いこと、つらいことがあった時には、男やったら逃げんと、おれがする、おれはやる、言うて立ち向かっていかんとな。(p.159~160)

2010.03.21

■D-ブリッジ・テープ [小説]

D-Bridge Tape by Kazuki Sato
沙藤一樹/著『Dーブリッジ・テープ』(1998)角川ホラー文庫

“D-ブリッジ”とはゴミの不法投棄が絶えない“横浜ベイブリッジ”の事を指す。そこで少年の死体と共に発見された一本のカセット・テープには彼の半生が語られていた。
父親に連れられ、捨てられた5歳の少年・ネン、彼は健気にもゴミの中で必死に生き抜いて来た。ある日、目の見えない少女・エリハが置き去りにされ、この日から彼の生活は一変する…ドラマ/スリラー

人の好みはそれぞれなのだから、当然小説の当り外れがある。
私は作家で読む方なのだが、コンスタントに作品が刊行されるわけではないので、最近は無難に角川書店主催の<日本ホラー小説大賞>受賞作品を読んでいる。わりと薄い文庫本が多く2時間程で読み終わるので、毎日手軽に脳内旅行へ旅立てる。

第4回(1997年)日本ホラー小説大賞>短編賞受賞作『D-ブリッジ・テープ』は、遺されたカセット・テープを会議室で20人ほどの臨海区域開発の協議者が聞くという設定。
わずか5歳で一人で生きねばならなくなったネンの独白は辛いモノがあるが、聞いているメンバーが全くの他人事という様子。
橋と会議室のシーンが交互に書かれているので一度上がった熱を急激に下げられ、興醒めしてしまう。

グロい表現はあるが、少年の置かれた境遇を考えるとそれも“アリ”かなと思う(何しろ経験が無いもんで…)。しかし、子供が捨てられるなら、他の動物や家に帰れない脳レベルの大人だって捨てられていてもおかしく無いと思う、そこら辺が不自然。
そして、主人公にお似合いの少女が登場してしまう辺りが、これは“恋愛ドラマ”なんだなと思う。
少年と少女だけの世界で思い出すのは真藤順丈の『地図男』、子供が捨てられる松本清張の『鬼畜』ではないのだよ。
捨てられた後の壮絶な人生を描いた小説で、少年・ネンは本能に突き動かされて“生”を目指してひたすら進む。そして、このテープは自分が確かに生きていた“存在の証”なのだ。

最初にも書いたが、あとがきで選考委員が熱く語っているのに反して、恋愛小説に興味がない私には熱くなれない内容、それに全く怖く無い…つまりハズレ。

2010.03.15

■夜市 [小説 恒川編]

Yoichi by Tsunekawa Kotaro
恒川光太郎/著『夜市』(2008)角川ホラー文庫

ここで手に入らぬ物は無い“夜市”、そこは妖怪達があらゆる物を取引する場所。
ずっと昔、5才の弟を人攫(さら)いに売り渡した裕司は、彼を買い戻す為に友人のいずみを連れて、青白い炎が灯る幽玄な“夜市”を訪れる。親切な老紳士に案内され、再び人攫いの店にたどり着く。「夜市」…ファンタジー/ホラー

角川書店主催の<第12回(2005)日本ホラー小説大賞>受賞作『夜市』(2005)、ライトノベルのような薄さなので手軽に読めるなと思い、古本屋で手に入れた。
“学校蝙蝠”などという、冒頭の異様で詩的な文章にてっきり『姉飼』等の著者・遠藤徹のようなエログロ怪奇幻想だと思ってしまった。
だが、全く裏切られた…
手をのばせば届きそうな、しかし足を踏み入れる事のできない裏世界での美しくも哀しいお伽噺、昭和ノスタルジーとも言える幻想小説2編が収録されていた。

裕司がどういう青年かはわからない、弟の名前さえ明らかにされない。しかし、彼らの苦悩はひしひしとこちら側に伝わってくる。物語が進むに連れ、登場人物の関わりが明らかになった時、ハッと息をのむ。

もがくほど切ないある夜の出来事。
とても余韻の残る話で、誰もがその先を、何かを、5年後を、いずみに、期待するのではないだろうか。

いつの日か 会う。それが、生きる目的だった。(p.72)
いつか涙が止まる夜が来るかもしれない…

*    *   *
12歳の夏、暇を持て余していた私と親友のカズキは、お稲荷さんの裏にある未舗装の道に入り込んだ。しかしそこは神々の道、大昔から日本にある“古道”で本来、人間が来るべき場所では無かった。
青年レンに導かれ、出口へと歩を進めるが、不運にもカズキが命を落としてしまい、死んだ人間を甦らせる事ができると言う“雨の寺”を目指す。「風の古道」…ファンタジー/ホラー

以前、武蔵野市に住んでいたので、容易に風景が想像できる。
畑が点在し、曲がりくねった遊歩道が走る郊外の町。黄土色の自転車で走り回った日々を思い出す。
『ペット・セメタリー』『キタイ』のようなイメージが湧くだろうが、そんな事を言いたいわけでは無い。思いがけない展開に心を動かされるであろう。

どちらも脱出不能なダンジョンに入り込んでしまった少年達の話。
それらは日本が舞台なものだから身近に感じられ、夏休みの思い出のような懐かしい空気が漂い、センチメンタルな気分になる。
言うなれば、トトロや千と千尋の少年版かな(アニメ観た事ないんだけど)。

2010.03.14

■雷の季節の終わりに [小説 恒川編]

Kaminari no Kisetu no Owarini by Kotaro Tsunekawa
恒川光太郎/著『雷の季節の終わりに』(2009)角川ホラー文庫

地図には載っていない隔絶された海辺の漁村“穏(おん)”に住む少年・賢也。
この地には、冬と春の間に“雷季”という天候が荒れ狂う季節がある。
この神の季節とでもいう時期に、“風わいわい”の存在を教えてくれた姉が突然姿を消し、賢也の中に何者かが宿った。
親友・穂高のおかげで平穏な日々を過ごしていたが、行ってはいけないと言われている“墓町”で知人を見かけた時から、賢也の運命の嵐が吹き荒れる…ファンタジー/アドベンチャー/ホラー

“恒川ワールド”2冊目『雷の季節の終わりに』(2006)、孤独な少年の切なくもみずみずしい冒険談。
…とは言っても、少年達のある一日を描いた映画『スタンド・バイ・ミー』では無い。風霊鳥がいるからって映画『ハリー・ポッター』でも無い。
どこかにあるかもしれない異界、現実の世界とちょっとずれた場所にある隠れ里“穏”にまつわる、賢也の人生に影響を及ぼした者達の物語を織り込んだ叙情的な伝奇とも言えるお話。

チェイス物が好きなので、ロバート・R・マキャモン/著『マイン』を思い出した。内容はまったく違うが、逃げる様がスリリングであまりの緊張に一気読み。

殺しにくるということは、殺されても構わぬというのが道理だ。それを忘れるな。
おまえが生き延び、どこか別の地で成長をすることを俺は祈る。そのように祈っている人間が、たった一人としてもここにいることを忘れるな。(p.117)
大渡さん、カッコいい

あるいは、私は明日には殺されてしまうのかもしれないが、今は死よりも生を考えよう。少しでも遠くへ。(p.119)
12歳ほどの少年にここまで言わすか
途中、一見関係の無い話が挿入されるが、これが後半へ進むに連れ、重要な意味を持つ。 読み進めるうちにあちこちに散りばめられていた余談が見事につながり、全てが明らかにされ、やがて訪れる運命の嵐の後、少年は雷から遥かに遠ざかってしまった…

めったに読み返す事の無い私だが、この本は“もう一度読みたい本”No.1だ。またもや引きずる読後感に、一つ残った疑問を勝手に想像してしまう。黄色いシャツの男・早田浩司のイメージは

あー、そうか…これは映画『レオン』なのだな。最後に残った者が協力者を得て、共に禍々しい幽鬼を葬る、和製RPG。
リーダーよ、9月3日。昼。荒川自然公園に集え! そこで、血を空へ巻き上げる男を目撃するであろう…(嘘)

2010.03.13

■草祭 [小説 恒川編]

Kusa Matsuri by Tsunekawa Kotaro
恒川光太郎/著『草祭』(2008)新潮社

様々な知識を与えてくれる叔父と共に山に生きる少年、彼は叔父を失ったときから声を失ってしまう。
そんな少年を救ったのは道に迷った僧侶・リンドウ。物言わぬ少年を“テン”と名付け、人里の暮らしを教えてくれた。
リンドウの孫娘・花梨によって声を取り戻し、周りの人々と共に穏やかに暮らしていたが、再び口の聞けぬ出来事に遭遇する「くさのゆめがたり」…ファンタジー/ホラー

さ迷える“恒川ワールド”4冊目『草祭』、小説新潮に掲載されていた短編が収められている。表紙の雰囲気が似ていたから、ずっと角川書店だと思い込んでいた。
本作はテンが作った美しい山奥“美奥”をテーマとした、民話/おとぎ話5編が紡がれている。

けものはら
小5の雄也、友人・春と共に迷い込んだ野原<けものはら>、そこにいると別な物へと変わってしまう。春が行方不明になってしまった…

屋根猩猩(しょうじょう)」
空想好きな女子高生の美和、クラスメイトは陰湿な猿。美和は不思議な少年タカヒロに出会う、彼は屋根飾りのある尾根崎地区の守り神なのだと言う。

天化の宿(てんげのやど)」
鬱屈した日々を送る少女・ゆうか、双子に連れられクトキを受ける。
意外な終わり方に唖然…苦は自分自身で乗り越えろと言う事か。

朝の朧町(おぼろまち)」
孤独な女性・香奈枝は長船さんに出会う。彼の作り出した町は彼女の心を映し出す。次々と思い出す辛い過去を後に残し、長船さんの故郷“美奥”へと旅立つ…

どれも幻想的で素敵な話だった。
もちろん、一番好きなのは「くさのゆめがたり」、やはりドキドキする話が好きなのだ。恒川氏はこういう少年が主人公の話が巧みで、読者を別世界へといざなってくれる。もしかしたら存在するかも…存在していたら良いと切に望んでしまう夢の世界(“ラピュタ”の世界に行ってみたいと憧れる子供とおんなじ感覚)。
屋根猩猩」も好きだ。小気味良いし、伏線に気付き、ハッとさせてくれた。
彼の小説は夢見がちな少女時代へ戻ったような読後感を与えてくれ、その話の続きを一生懸命考えている自分がいる。

2010.03.12

■秋の牢獄 [小説 恒川編]

Aki no Rougoku by Tsunekawa Kotaro
恒川光太郎/著『秋の牢獄』(2007)角川書店

女子大生の藍。11月7日水曜日の翌日、大学へ行くと親友の由利江が昨日と同じ事を話す、日付を確認すると11月7日だった。
次の日以降も、目覚めるとまた11月7日を繰り返す…秋の一日に囚われてしまったのだ。もう、クリスマスも正月も誕生日も来ない。
そんな孤独な藍の前に一人の青年が現れた「秋の牢獄」…ファンタジー/SF/スリラー

第12回日本ホラー小説大賞を受賞した『夜市』以来、独特な異世界に魅了され、恒川光太郎の本を読み続けている。
2冊目の『雷の季節の終わりに』も素晴らしかった。

しかし、この3冊目の中の「秋の牢獄」は…う~ん、今ひとつ。
主人公が女性で現代がテーマとなり、現実と隣り合わせの異世界を描いてはいるが、私にはのめり込めなかった。
女性がマルボロを吸うのにも違和感、レース好きの男がカッコつけて吸うタバコだと思う(臭いから隠れて吸うタバコ向きではないのでは?)。
前作までは、自分のおかれた境遇を何とかしようと必死に行動する少年達の姿が切々と語られていたが、この「秋の牢獄」は受身だ。
藍は現在の状況を悲観しながらも受け入れるしかない。刹那的な過ごし方しかできないのは分かるが、いつか終わりが来ることを、誰かが自分を解放してくれるだろうと漠然と期待して待っているだけのように思えて共感できず、不満がくすぶっていた。

そんな私の気持ちを変えたのは「神家没落」、この本の中で一番好きな話である。
最初は牧歌的な民話/神話でも読んでいるかのようだったのが、まさかこのような展開になるとは思いもよらなかった…ホラーである。

最初、何を言いたいのか分からなかった「幻は夜に成長する」、幽閉され善行という名の金稼ぎを強いられる女・リオ、特殊な能力を持ったがゆえに孤独な人生を送って来た。人々を救いはするが、彼女が救われる日は来るのだろうか。
それよりも何よりも、とても気になったのはリオの母。たった一人の身内を、やっと取り戻した娘を、彼女はなにゆえ手放したのだろうか?

身近な女性にアドバイスされてはいるのだろうが、作者は男だから女の気持ちまでは表現しきれないという事なのだろうか。
「恒川ワールド」とはちょっと違った雰囲気の3編、たまにサイコなホラーが顔を出す。

2010.03.02

■覚書11 [日記]

[美術展]
ボルゲーゼ美術館展』ラファエロ《一角獣を抱く貴婦人》
 2010年1月16日(土)~4月4日(日)9:00~ 東京都美術館

Cyber Arts Japan
  サイバーアーツジャパン―アルスエレクトロニカの30年』
 2010年2月2日(火)~3月22日(月・祝)10:00~ 東京都現代美術館

[イベント]
②回目
 2月21日(日) 15:00~ ルミネtheよしもと
[ネタ]笑い飯/ロバート/ノンスモーキン/POISON GIRL BAND/ピース/少年少女/バッファロー吾郎/なだぎ武
[吉本新喜劇ほんこん班]ほんこん/大山英雄/シベリア文太/本田みずほ/芦澤和哉/内海仁志/原万紀子/チャド・マレーン/浜田翔子/他

ドラびでお presents『COLLABORATION BREAK DOWN #7
 2月28日(日)19:00~ 秋葉原CLUB GOODMAN
 やくしまるえつこ(相対性理論)+Daito Manabe+ホリイサトシ+ドラびでお, とんち+一楽まどか

[観劇
劇薬混入団すくらっち 第19回公演『雨の音・風の詩
 2010年2月28日(土)13:00~ 浅草橋アドリブ劇場

[読書]
小説
 田辺青蛙/著『生き屏風』角川ホラー文庫
 福澤徹三/著『アンデッド』角川ホラー文庫
 飴村 行/著『粘膜蜥蜴』角川ホラー文庫
 恒川 光太郎/著『雷の季節の終わりに』角川ホラー文庫

※飽きもせず、1/30に鎌倉へ行って来た 

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